VR180カメラを作る その1

※撮影会時に持ってもらった写真より

 

概要

Meta社(旧facebook)のQuest2が沢山売れ、VR動画やVR写真がインターネット上に多く展開されるようになってきた。そんな中、Insta360 Evo等の安価なVR180対応カメラが生産・販売停止状態となり、高価な中古やハイエンドの機器しか購入できない状態となっている。本記事では10~15万円程度で製作可能なVR180対応カメラについて記載する。いわゆる自作だ。なお本記事の執筆した理由はVR180カメラの普及だが界隈が盛り上がれば幸いである。目標は「日本語ソースで一番安く簡単にアライントが取れたVRカメラの製作」だ。

結論から言ってしまうと、80万円ぐらい出せる人はキャノン EOS R3とVRレンズがいいと思います。安価ではんだ付けも要らないポンっと作りたい人向けです。

※初版は2022年8月10日となる。
※2024年1月15日改版。リンク等微修正。

特徴

実際に作成したものがこちら。カメラ2台で構成されているため重量はそれなりに重いが、Insta360 Evoと比べると圧倒的な描写力だ。レンズは円周魚眼タイプのものを利用している。対角魚眼の利用も考えたが、ポートレート撮影では近距離で足元や周りの景色を写したいため円周魚眼としている。
※評価用に対角魚眼も1本購入済。両方の違いはWikipediaの当該項目を参照。

VR用の写真や動画を撮影する際に重要なのはIPDである。本構成では後述の組み立てをした場合はIPDが73mmとなる。筆者の瞳孔間は約68mmでVR180カメラの定番であるInsta360 Evoは65mm程度。この数字が大きいと写したものがMeta Quest2内では筆者のIPDでは小さく表示されてしまう。如何に自分のIPDに近づけるがポイントだ。筆者の初期開発テストと比べ、本記事執筆時点では5mm程度短くすることに成功している。

例えばあなたが172cmだったとしよう。160cmの子を写して表示した時に175cmぐらいに大きく見えたら・・・・と考えるとIPDを合わせたくなるはずだ。平均的な方であれば65~70mm程度が良いと筆者は考える。

 

部品構成

全体の構成は下記のようになっている。カメラは中古で入手しているがこれは安価にAPS-CサイズセンサーのVRカメラを作るため。今回はα6000を使用しており全体で約15万円だ。α5000やα5100を使用した場合は10万円程度となる。両者で筆者が比較・選択した理由はマルチインターフェイスシューの有無だ。

 

本構成で利用した構成品のAmazonへのリンクを下記に記載する。組み立て過程や失敗例を見ていただくと分かるが、似たような他の構成だと上手くいかない事もありえる。絶妙な組み合わせだったりするので是非参考にしていただきたい。色も黒を基調とした中に、レンズの周り、グリップ、ストラップに赤い色が統一して入っているのもポイントだ。最初からそういう製品かのように選んでいる。

カメラ部

マウント部

シャッター部

データ部

その他

動作

実際にシャッターを押した様子がこちら。筆者はフリッカー対策として、物理シャッターを利用しているため音が大きめだ。

ここでの注意点。2台同時にシャッターは押しているがお互いの同期はされていない。そのため連写した場合は2台でズレが発生する事がある。3~4秒に1回シャッターを押す程度にとどめた方が良いだろう。この動画の後半はあえて連写してみたが同期できなくなっている。
※これはSDカードへの書き込み速度も影響しているが、安価に構成しているため顕著に表れている。

 

変換ソフトウェア

筆者はTaichi Nishimuraさんのソフトウェア”180Augen”を利用して両眼で撮影したJPEGデータのVR180用ファイルを作成している。執筆時点では2023年11月22日版が最新のものだ。

Chromeでは警告が出てダウンロードできない場合があるので、必要に応じてEdge等他ブラウザを利用してみよう。ソフト内には丁寧な手順書もあるため、分かりやすいはずだ。Edgeの場合はダウンロード画面でストップされている場合がある。同画面を開いて許可をしよう。

筆者と同じ構成で同じ組み立てをした場合、カンマ数字入力は試しにこの値を使ってみると良い。上手くいかない場合は各自で調整すること。
本ソフトウェアは左右を調整する機能(画面内のGet A, B)があるのでその機能を使うのが良いかと思います。

1147,1815,1125,1777,2795,2779,2821,2811

この値はカメラのアラインメントが取れていれば、全ての写真共通でも良い。自身で値を作る場合は遠い景色のビルの窓等をA点B点として指定しよう。スタジオ内の壁や置物では近すぎて視差の誤差が大きいため合成時にズレる。筆者は自宅窓から見える50mほど先の建物の特徴点から作成した。A点B点間はカメラと平行した数十メートル間隔で取ってある。

筆者と同じレンズMeike 6.5mmの場合は下記の設定となる。名称がα6500となっているが実際に利用しているのはα6000だ。

 

閲覧ソフトウェア

閲覧用ソフトウェアはMeta Quest2内蔵のOculus TVアプリかQuest1のOculus Galleryで閲覧が可能だ。なお筆者は別のソフトウェアを利用している。それは、immerGalleryだ。前述のアプリと異なりVR180用ファイルを自動認識でき、またOculus TVと違ってフォルダ分けしたファイルを閲覧できる。有償だがその価値はあるだろう。

 

撮影サンプル1

本サイトで2022年7月28日以降のギャラリーデータは概ね本カメラで撮られているはずだ。こちらを参考にしていただきたい。それ以前のものはInsta 360Evoのものとなる。

Oculus Quest その4 VR180ギャラリー編 No.1

撮影サンプル2

Oculus Quest その5 VR180ギャラリー編 No.2

組み立てのコツ

Lブラケットのネジを7本外す。これを外してもL字型のフレームは別のネジで固定されているので問題ない。

  • 緑枠内
    IPDを縮めるため、板と隣のカメラの距離を縮める為に必須だ。
  • オレンジ枠内
    1本だけ残して外す。これは両眼のカメラの高さと確実に正面を向かせるために必要な作業だ。

グリップ部分は他の製品でも問題ないが筆者と同じものを選んだ場合の利点を記載する。プレートへの装着時にこの部分が少し飛び出るのがポイントだ。

すると外したネジ部分の溝に収まる。そしてLプレートを止めるネジの台座と並行になる。これで片眼のカメラは完璧に固定される。
※後述のスティックライト編を実践する場合はこのネジを外す。

プレート上の円形の樹脂部品は外してしまいましょう。左右のカメラの傾きの原因になります。
接合先もL字プレートです。この点ではカメラ本体への傷はつきにくいため、左右の視差を合わせ優先としましょう。
※2023年9月8日追記

カメラのストラップ部分はLプレートに溝に入れる。ここは次の工程への布石となっている。

カメラのグリップを握って、Lプレートに押し付け、背面方向にも力を入れる。この状態でカメラをネジで固定する。これでストラップホルダー部が溝の端に固定される。左右を同じ向きにするための手段だ。微妙に前かがみになるがブラつくことがなく長所の方が多い。これを2台分やる。

溝からカメラを見ると本体の分割線が斜めになる。言い方を変えると何もしないと遊びがあるため、左右のカメラでズレてしまう。そのため背面方向に押し付けて左右が同じになるように意図して実施している。

もう一方もカメラプレートにネジ止めを軽くする。先ほどの外さなかったネジと固定用ネジで高さが合うようになる。

Lプレートの厚みがあるため、カメラ背面を机に置く事で完全に平行が取れる。この状態で左右から圧迫して下部のネジ止めをする。この時点で左側カメラのモード切替ダイヤルは変えられなくなる。それぐらいに押し付ける。

カメラ上部が少しグラつくので、左カメラのストラップ穴と右側カメラのLプレートを結びつける。隙間が空けばIPDが広がったり、ズレた映像が左右で撮られてしまうため注意しよう。

ここまでの手順で左右で平行が取れたカメラが完成である。このぐらいの精度で組んでおけば、後述のソフトでのカンマ区切りデータ(アラインメント用)を毎回使いまわしても3D映像はズレない。

次にシャッターを司るレリーズ部分だ。SONYのαシリーズはカメラ側がマイクロUSBで、もう片方がステレオ端子となっている事が多い。それを逆手にとってステレオプラグ 2.5mmを分岐するパーツで、1クリックで2台に信号を送れるようにしている。

両方のカメラにコネクタを指す。コネクタは衝撃に気を付けること(後述)。

ちなみにこの赤枠部分のパーツはシャッターですが、外しても構いません。その場合は右側のカメラ上のシャッターボタンで同期して左右同時に撮影ができます。シャッターそのものの作りはカメラ自身の方が良いので、そちらがお薦めです。
ちなみに単にUSB タイプBに両端になっているケーブルではシャッター同期は出来ません。あくまでアナログ端子に変換されている必要があります。短くしたい人は自身で切断とはんだ付けで加工しましょう。
※2023年9月8日追記

MEIKE 6.5mmレンズのリングは非常に軽い。触れる程度で回ってしまう。両方のカメラが合うようにマスキングテープでF値と距離設定を固定化するのが良い。設定値の調整は後述する。

なお筆者は左右のカメラが分かるようにマスキングテープにマジックで文字を書いている。併せて、SDカード自体にも左右の文字を書き入れた。編集時にミスらないためにだ。

 

撮影と調整のコツ

まずは撮影時の高さ。レンズが自分の目の位置に合うように手で持ってシャッターを押すこと。ファインダーを覗いた場合は、レンズはファインダーより下に位置するため、背が低い時と同じ状態になってしまう。撮影した近くに人や乗り物等がある場合、Quest2で閲覧すると自分の背が小さくなってしまったと錯覚してしまうだろう。

次にフォーカス設定だ。Meike 6.5mmの場合はマニュアルフォーカスである。筆者はポートレート写真で人物が立体的に見える距離はQuest2では1m以内だと考えている。それを越えると髪の毛等の立体感が失われる。解像度的に左右の視差でピクセルのズレが発生しなくなるからだ。テストした際の画像がこちら。30cm毎に印刷物を配置している。これで撮った写真のピントを調整する。

ポートレート撮影時にシャッター毎に変えるのは面倒であるため、筆者はF8・0.3mで付近で固定している。撮影データを見てみるとこのようになる。

30~90cm程度であれば、ある程度シャープに写る。手前には明細書を置いているが、これには理由がある。高解像度のレーザープリンタで印刷されているからだ。後ろにあるパッケージと違い、文字の解像度が段違いとなっている。そのため手前の解像度を測りやすい。

左右のF値の調整

この後はF値の正確な開放調整です。MEIKE 6.5mmレンズ上のリングに印刷されている値はあまり信用ができません。左右を同じ位置に合わせたつもりが結構違います。開放を合わせるコツは左右のISO値とシャッタースピードをマニュアルで同じ値します。次にカメラの白飛び警告機能で左右に写っている画像の白飛び部分が合うように片方だけリングを回し、このように白飛びが同じになるようにします。これでレンズ上の印刷に惑わされず、同じ開放値をほぼ得られます。
※2023年9月8日追記

ストロボ

片方のカメラにオンカメラでストロボを載せ、プリ発光をオフにしてテストを実施したところ、シャッタータイミングが合わず片方のカメラにしか適用されなかった。良い案があればご教示願いたい。

スティックライト編

ストロボ同期の問題は解決できないので、筆者はLEDライトで解決を図ることにした。製品はNEWER社のLED ライト 1個である。
本来とは演色性が高く、発色が良いのでお薦め。
前述の組み立て編の下部のネジを1個外す必要があるが、そのまま横にスライドし装着が可能だ。レンズの影が大きく出るかと思ったが、それほどでもなく正面の領域であれば問題が無いことを確認できた。1/4インチネジで固定可能。

完全に真っ暗な状態で白い壁に囲まれた状態。光の出力は100% 5000KでMEIKEのレンズはF12付近、50cmの距離で撮影してISO 640・1/80と実用に耐える値がでた。JPEG撮って出しでこの色合いだ。α6000としては十分すぎると考える。

 

失敗例・留意事項

オートかマニュアルか

筆者はマニュアルモードにしてISOとシャッタースピードを決めている。F値は記事内に記載の通り固定値が基本だ。オートの場合は魚眼レンズあるあるとなるが、中心となる被写体に明るさが合わずに180度の半球内にある天井のライトや空の太陽に明るさが合ってしまう事があるためだ。なお新しいAPS-Cカメラで組んだ場合は瞳オートフォーカス等と合わせて明るさも合わさることがあると考えられる。

そしてもう1点。オートにした場合、左右のカメラで明るさが異なる事がある。実際にISOをAUTOにしただけでもこの事象が発生したため、筆者は回避するようにマニュアルISOとしている。

 

レリーズケーブルは使わない時は即外すこと

SONY αシリーズに限らずだがコレクタ部は弱い。ぶつけた際に壊れてしまう事が想定されるため使わない時は常にコネクタを外しておくのが良い。

 

撮影直前にプレート下のネジを確認する

本記事で利用しているプレートとLマウントを止めるネジは比較的ゆるみやすい。家で組んで持っていく場合も撮影直前にネジを締め付けるようにする。少し緩んでいるだけで3Dファイル化した際に1枚1枚設定の調整が必要になってしまう。

 

ポートレート撮影する時の目線

モデルさんには『両目を見る感じで』と伝える。カメラを作った本人もそうだが、レンズが2つあるカメラに撮られる経験は普通は無いので、片方のレンズを見てしまいがちである。3m以上離れている場合は、片目を見ていても気にならないのもポイント。

 

ポートレート撮影する時の設定

F値は高めに設定する。「撮影と調整のコツ」に書いたが、F8.0、30cm程度の設定にしておくと、2.5m程度の距離までの写真はシャープに見える。また近くで見つめられるような写真でも瞳がキッチリと写る。50mmや85mmのポートレンズと違って、魚眼レンズは50cmぐらいの距離で撮っても全身が写るので意外と小さく写ることも留意したい。Insta360 Evoと違いプレビューが可能なので本人にもその場で見せられるのも自作3Dカメラの利点だ。またモデルさんを待たせて、リングを回して設定を繰り返しのはナンセンス。F値は高めにすることでフォーカスが合う位置を広めに取った方が良いと筆者は考える。

 

連写しない

左右のカメラが別々に動くので、必ずしも左右のカメラが同時に書き込みが終わるとは気がらない。連写をすると、このタイミングずれで左右の画像の時間ズレが発生する。シャッターを押した後、背面液晶で書き込みが終わって、またセンサーのプレビューが表示されたタイミングでシャッターを押すことが望ましい。そうしないと連続してシャッターを押したときに左右の像が必然的にズレる。筆者の環境だとJPEGで約3秒に1枚撮れる。RAW撮影はしないこととなった。

 

アルカスイス型のマウント

実はこういったマウントが存在する。特定機種に合わせて設計されてるためガッチリと固定でき、前述の組み立ての工夫も必要ない。しかもSDカードもバッテリもLマウントを装着したまま交換できる。では何故買ったこのパーツを使わなかったのか?

実はUSB端子側が下側になってしまうからだ。この場合、α6000や6100はレリーズケーブルが使えなくなる。同時に2枚撮る観点からはNG。そのため筆者は利用を止めている。

他機種を使う場合

IPDを縮めるにはカメラの上下部分の長さがポイントだ。青線間及び赤線間の部分である。一見小さく見えるカメラでもシャッターボタンや電源ボタンが膨らんでいたり、一眼レフのように軍艦部分がある場合はIPDが大きくなる。その場合は、撮影したものがQuest内では小さく表示されてしまう。他の機種で組む場合には注意していただきたい。

IPDをさらに縮めるには、APS-Cセンサーのカメラでは機種がかなり限られてしまう。場合によってはマイクロフォーサーズのものになってしまうだろう。別な機種を使う際は、実際に組んだ時に問題が発生することもあるので、他の方の事例を参考にするとよい。ちなみに画質優先でフルサイズのセンターを使った場合は被写体が小さく写ることは確定だ。そのため、APS-C及びマイクロフォーサーズのみが対象となる。価格帯を考慮し、安く組む場合は中古が豊富なAPS-Cになるだろう。

α5000シリーズの前身と言えるNEX-5RはEマウントの高さとイコールであり、APS-Cセンサーで最小限のIPDを実現可能だが、なにぶん世代が古く画質は劣ってしまう。

格安で軽いのでマウンド用ネジ穴もあるので目的次第ではあり。

レンズカバーはいつもする

魚眼のため真横まで撮れる。そのためフードカバーが無い。そしてこのカメラは重い。結果的に首からぶら下げていることが多いと思うが、体の横にあると腕がレンズに触れてしまって汚れること多し。使わない時はレンズカバーを常にした方が良い。

 

参考サイト

本ページに都度まとめているが、筆者のX(旧Twitter)内で”#VR180撮影環境構築 “で検索してもらえれば最新の情報が得られるはずだ。
その他、筆者が参考にさせていただいている方々のTwitterも参考にしてみよう。

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